米澤穂信 「さよなら妖精」 感想
![]() | さよなら妖精 (創元推理文庫) (2006/06/10) 米澤 穂信 商品詳細を見る |
最近,米澤穂信さんにはまっています。
「さよなら妖精」も最高に面白かったです。
米澤さんにとっての3作目にあたります。
「氷菓」,「愚者のエンドロール」を書いた後,古典部シリーズ第三弾として書く予定でいたようですが,色々あって創元推理文庫から出ることになります。
それによって古典部シリーズとは別の作品になっているのですが,シリーズから外れたことが結果的には良かったのではないかと思います。
91,92年のユーゴスラヴィアが物語に関係してくるので当時のユーゴ情勢のことを知っていると…………
切ない青春小説として素晴らしい出来です。
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個人的にはU2のWAR(闘)を最初に聞いたときと同じくらいの衝撃を受けました。
安全に暮らせる世界がある一方で戦いがリアルに行われている世界が身近に存在しているというギャップがとても印象的でした。
古典部シリーズになる予定だったということで,作風的に古典部シリーズに近いのですが,「氷菓」よりもずっと出来がいいので,最初に読む米澤作品の一冊としてもお勧めです。古典部シリーズよりも一般ミステリーよりの味付けになっています。日常系ミステリ+青春+切なさといった感じでしょうか。青春と切なさの破壊力がかなりあります。
ネタバレ含むので残りの感想と考察は追記で:
◇あらすじ:
さよなら妖精は1992/7/6,マーヤという名の少女が帰っていた国を探すことから話がスタートします。
それを探るために1991/4/23のマーヤとの出会いから1991/7/7までの別れまでを,翌年の1992/7/6に主人公である守屋の日記による回想を通して振り返って行きます。(向こうの地名や,言葉をあそこまで正確に書き留めることができたのが謎ですが)
マーヤはユーゴスラヴィアからお父さんの仕事の都合で日本に来ていて,2ヶ月の滞在中別行動することになっていましたが,滞在しようと思っていた家の人が亡くなっていて,途方に暮れていたところに守屋と友人の大刀洗が通りかかり,守屋のクラスメイトの白河の家が旅館なのでそこでお世話してもらうことになります。
最初はマーヤにそれほど関心を示さなかった守屋ですが,接しているうちにマーヤの国のことやマーヤが関心を示すこと,その視点や考え方に興味を持つようになってゆきます。
守屋にとってマーヤは初めて触れる外の世界であり,初めて心から惹かれる異性となります。
この二人と大刀洗と白河の関係も実に面白いです。
守屋は鈍感系主人公なので,大刀洗の気持ちに気づいていません。クール系美女の大刀洗と人情味溢れる優しさを持つ白河という対照的な組み合わせなのですが,守屋が意識しているのはマーヤだけ。
白河の内面は見えていても,大刀洗の気持ちは全く見えていません。
このすれ違い感が切ない青春小説としての面白さを引き出してくれています。
終盤での大刀洗の叫びとか守屋がマーヤにプレゼントした紫陽花のバレッタに気がついたときの反応とか最高です。
◇キャラ紹介:
守屋:
最初はマーヤにそれほど関心を示しませんが,日曜日に街を案内している時に,橋や宗教観など様々なことに関心を示すマーヤを見て,自分もその気になれば色々なことに触れられるのだということに気がつきます。
20世紀の日本という何も問題のない生活を送っているゆえに,これまで何かに打ち込むことはなかった守屋ですが,マーヤとユーゴに心惹かれるようになります。
第一章冒頭で,豊かで幸福であるゆえに,礼節を知るためにはそれを一度失う必要があるということが語られていましたが,近いようで遠いマーヤの世界に憧れるようになってきます。
マーヤ:
「んー……」が可愛いです。
最初の出会いは「不動橋」を渡った後でした。その名前に反し,狭くて壊れそうな橋です。
今後のマーヤと守屋の関係を暗示しているように見えます。
マーヤがバレッタをプレゼントされた後,身につけていた。同封されて送られてきたことからユーゴに戻った後にもつけていたことがわかります。
このことからマーヤも守屋に特別な想いを抱いていたことがわかります。
検索技術を駆使してマーヤのような女の子の画像を探したのですが,イメージ通りのマーヤの姿を見つけることはできませんでした……。映像化されたら要議論です。
大刀洗:
レーベルを変えることで新キャラとして導入。作者のこれまでの作品の中でも一番のお気に入りヒロインでもあります。
クールな外見,鋭さをイメージさせる姿ですが,乙女なところも。日本人なだけにその外見はイメージしやすいです。
いずるには借りがあると言っていましたが,恐らく守屋に関することで恋の相談でもしていたのではないでしょうか。
守屋が探偵役のポジションなのですが,大刀洗も同時に気がついていることが多いです。でもなぜか推理を披露したりはしません。
賽銭泥棒の話に出てきた思い違い。それが守屋の大刀洗に対する見方にも表れていました。
いずる:
人情派の優しく世話好きな女の子。
古典部シリーズの千反田えるがベースです。旅館の娘なのですが,千反田の名前のモデルとなった四反田旅館が関係してそうです。
最初の登場シーンで守屋の隣に大刀洗がいるのを見て微笑んでいたことからも,大刀洗の恋を応援していることがわかります。守屋がマーヤにプレゼントした時も大刀洗にも何かあげるように進言していました。
四反田旅館。千反田の名前の由来となっています。作中でも白河の家の旅館「きくい」が木造二階建てとあったので,モデルとなっている可能性があります。
◇Seventh Hope:
「哲学的な意味がありますか」が本の帯にも書かれていて,この作品を象徴する言葉です。
マーヤが知りたがるのは哲学的理由,意味。
それは6つの国,文化が一つになった7つめを生み出すため。
さよなら妖精には Seventh Hope という英語タイトルが付けられています。それを創り出すことががマーヤの仕事,役割でした。
そのためにも特別な場所ではなく,普段の姿を見たいと,観光客の行かないようなところを見たいと言い出します。
そのことが第一章のタイトル,「仮面と道標」にも表れていました。
マーヤが見たかったのは仮面を付けていない普段の姿。
それが必要なのは6つの国が一つになった7つめの文化を創るためには,人の心にあるもの,本音というか人の本質を知る必要があるからです。
その課程で紅白饅頭の話から,最初は間違いでも本当になる,わざとではない伝統の創造に興味を惹かれていました。最初は勘違いだとしてもそれが結果的に文化となるという可能性を示していました。
でも,第二章「キメラの死」というタイトルが示しているように,その後のユーゴは……
キメラ:ギリシア神話のキマイラが元になっていますが,二つ以上の遺伝子的に異なった細胞からなる生物体を指しています。
ユーゴスラヴィアはキメラのように,複数の国,民族,宗教,言語が一つになった国でした。
しかし,独立と紛争によって死ぬことになります。
この第二章からが本題,推理編で一気に面白くなってきます。
まず,何事にも打ち込むことのなかった守屋が本気でユーゴのことを調べるようになります。
自分や白河,大刀洗がいる円,それがこれまでの守屋の世界でした。
でもその円の中に外の円からマーヤが飛び込んできます。
そのことから,自分も外の円,別の世界にも行くことができるということを考えるように。
しかし,そこでユーゴスラヴィアの紛争が。
ユーゴが抱えていた様々な問題が語られて行きます。
それによってマーヤとの別れが近づいてしまいます。
こうして事態が動いているのに何もできないことに苛立ち,マーヤを諦めることができずに焦る守屋の姿が心を打ちます。
事態が深刻なものになろうとしていてもいつも通りのマーヤ。
お別れ会での名前の意味のエピソードが興味深いです。
「いずる」の名にある哲学的な意味,漢字では意味が矛盾しても,ひらがなではそれがなくなる。
ユーゴスラヴィアのように民族的,文化的,経済的な問題のために国内に矛盾していても,それを日本語は解決することができます。あとがきでいうところの「不一致の一致」を可能にしています。でもユーゴの行き先は……。
それを考えるとマーヤの無念が伝わって来ます。
「あと二十年,いえ,十年ユーゴスラヴィアが続いたら,わたしたちはなにかをできたのかもしれません」
というマーヤの言葉。
マーヤのユーゴスラヴィアが誕生したのは1943年。この時の1991年まで48年が経過しています。
銀行の合併でも旧行の行員が残っているうちはなかなか一つになれないという話を聞きます。
合併後に入行した人たちが要職に就くようになり,旧行の人たちがいなくなることによって一つの銀行になると。
もう少し時間があれば,ユーゴの6つの共和国も一つになり,7つ目の文化を創ることができたかもしれません。
そうして,自分の世界を造ろうとしているマーヤ。
自分の憧れているマーヤは手の届かないところ,別の世界,外の円に行こうとしています。
そのことに耐えられない守屋は自分もマーヤと一緒にユーゴに行こうとします。
これが最初で最後の外の円,世界に行くチャンス,今こそが冒頭での大刀洗とのやりとりであった,衣食を捨ててでも礼節を取るときべきだと感じています。
マーヤと同じ目線に立ちたい,一緒に世界を造りたい。
ユーゴスラヴィアに連れて行ってくれと頼みますが,守屋が観光に行きたいと思っているとわざと日本語が通じていないフリをするマーヤ。
この辺の切なさがたまりません。二人の間を結ぶ橋,日本からユーゴへの橋は繋がりません。
それで,日本を去り,ユーゴスラヴィアへと戻るマーヤ。
ここからマーヤがどこに帰ったのかを白河と推理する守屋。第三章の「美しく燃える街」が解決編になります。
マーヤの無事を信じたくても,その後のユーゴの現状を見ると可能性は……
そんな悲壮感漂う中でマーヤの無事を知ろうとして,マーヤの言葉の断片から故郷を探そうとします。
手紙が着ていないことからすでに分の悪い賭です。
それでもマーヤのことを忘れられない守屋は無事を信じたくて情報を探ります。
文原のように最初から手の届く範囲の外に関わらないようにしていれば,こんな思いをする必要はありませんでしたが,守屋はマーヤを通して,手の届く範囲の外を見てしまっています。それゆえに諦めきれません。
鍵となる言葉「ツルナゴーラ」も今だとググると一瞬でわかってしまいます。wikipediaでも宣戦布告のことが書かれていました。
無事を信じて推理をしても,その結果からマーヤが死地に帰ったことがわかってしまいます。
サラエヴォ包囲では12,000人が死亡しています。Siege of Sarajevo やBosnian Warなどで検索するとその絶望感がわかります。
それでも,ボスニア・ヘルツェゴヴィナに行こうとする守屋。
それを止めようとした大刀洗から真相を知らされることになります。
サラエヴォに帰ったことを知っても,今の自分ならマーヤの隣に立てる,マーヤの無事に関してもまだ一分の望みを抱いていた守屋の希望を完全に打ち砕きます。
それだけでなく,守屋のマーヤへの想いが届かなかったように,大刀洗の守屋への想いが全く届いていなかった,マーヤの帰った場所は推理できても,大刀洗のことを全く理解できていなかったことに気づかされます。
作中にはマーヤの帰った場所だけではなく,大刀洗の気持ちもヒントとして示されていましたが,守屋が探していたのはマーヤのことだけでした。
◇この物語の結末は:
終章で守屋と大刀洗はマーヤと一緒に行った墓地にバレッタを埋めます。
守屋はマーヤの死という運命を変えるためのバタフライエフェクトとなることはできませんでした。
それでも守屋に,「あなたの挙動や言動で結果が変わることはあったかもしれない」と言ってあげる大刀洗。
マーヤとの関係は終わりましたが,大刀洗との関係はまだ終わっていません。
バレッタを埋め,マーヤは死に,永遠に去ってしまったことを実感する守屋。
埋めることによって一つの区切りがついたように感じます。
マーヤたちと墓地に行ったときに,ただ生き,死んでゆくことにならないように,なにから手をつけるかを示すための道標が欲しいと守屋の気持ちが語られていました。
第一章のタイトルにも登場する「道標」。これがマーヤのバレッタの埋葬をも意味することになります。
しかし,「盛り土もない仮の墓」とあるように,そこには墓標は記されていません。
なので,しばらくは何から手をつけたらいいのかわからない状態が続くのではないでしょうか。
それが仮の墓ではなく,本当の墓とすることができるようになるとき,それを道標にして前に進むことができるようになると思います。
マーヤについての真相は白河には伝えないのではと思います。
白河は安全な国に帰ったと信じて……そう信じようとしています。
白河のことを理解していた守屋なら,わざわざ真相を伝えることはしないのではないでしょうか。
それによって,大刀洗と守屋の間には共通の秘密ができるので,二人の関係はまだ続くことになりそうです。
恋愛関係には発展しないとは思うのですが,友人としての関係は続いていくのではないでしょうか。ここでの結末的に続編は書けないとは思うのですが……。
◇日常と非日常:
守屋にとって初めて触れる外の世界,非日常。
でもその世界はマーヤにとっての日常であり,これまでの外国で過ごしてきた日々は,すべてマーヤの世界,ユーゴスラヴィアに対するマーヤの夢,七つ目の文化,希望をかなえるためのものでした。
マーヤにとって守屋は非日常のイレギュラー的存在でしたが,守屋の気持ちに気がつくようになり,あえて突き放すようになります。
マーヤとしては本当の意味で一つになったユーゴを造ることがまずは最優先で,その中にはまだ守屋は含まれてはいません。
守屋は自分が何をしたいのかがわかっていませんでした。日本のような恵まれている国,単一国家に暮らしていると,ユーゴスラヴィアが抱えている問題は非日常でありなかなか理解できません。
でも「なにかをどうにかしたい」のではなく,とにかくマーヤの側にいたい,マーヤのいる場所を自分の日常にしたいということに気がつくことになります。
マーヤに「連れて行ってくれ」ではダメだったのです。
マーヤと共に7つめの文化を造る側に立つ必要があり,そのことをマーヤも望んでいました。
でも,守屋はあの一緒に過ごした短い期間ではまだそこまで理解できていません。
それでマーヤは,あえて「観光」という言葉を使い突き放します。
守屋が行こうとしてるユーゴスラヴィアは間近に非日常になることが見えています。
事態が沈静化したらもう一度,日本に行って守屋に会いたいと思っていたはずです。
この二人の再会バージョンを見たかったのですが…………
◇青春の終わりと子供から大人への変化:
その象徴として酒やタバコが作中に登場します。
高校生が,一部19歳がいましたが,未成年なのに飲酒します。(お酒に弱いのは白河も千反田も同じでした)
大人になることは辛いこと。大人になったゆえに守屋には辛い現実が突き付けられることになります。それから自分を誤魔化すため,現実逃避するためには酒が必要です。
高校を卒業した後で,マーヤに関する真相を知ることになっていました。
それは高校生では受け止めることができないような辛い真実。
卒業後までを描くことによって,この結末にすることができたのではないでしょうか。
◇ユーゴスラヴィアという国:
作中でもユーゴとソ連はとても仲が悪いと書かれているように,ユーゴは社会主義の国でありながらも,ソ連側に属さないため,東でも西でもない独自路線を取っていました。そのため日本でもユーゴは余り知られておらず,紛争が起きるまではほとんど話題にならない国でした。サッカーファンくらいしか興味を抱かなかったのでは。
このような複雑な国だけにマーヤの抱いていた理想,そのために目指していた努力が胸を打ちます。
マーヤが見たかったもの,そこで暮らす人の本音や本質のようなものでした。それを7つめの文化に役立てようとしていました。
マーヤがそれぞれの国で何を見てきたのか,何を見ようとしてきたのか。
「人間は,殺されたお父さんのことは忘れても,奪われたお金のことは忘れません」
この言葉にマーヤがこれまで見てきた人間の本質が表れています。
大抵のものはお金で買い戻すことができる。お金で買えないものの方が大事だと思うわたしなんかは,衣食足りているゆえに,人間の本質が見えていないのかもしれません。
◇橋:
マーヤが作中で語っていたように,橋が象徴的な意味を持っています。
橋は民族や文化を象徴するものともなっていますが,国や文化ををつなぐ役割としての架け橋のイメージにもなっています。
これが不動橋のモデルでしょうか。
さよなら妖精も古典部シリーズと同じく,高山がモデルのようです。
三町 (高山市)-wikipedia
マーヤと一緒に見物した歴史保存地区,中之町は高山の三町であると思われます。
そこに行くのに渡った論田橋は鍛冶橋であると思われます。
鍛冶橋・宮川朝市界隈
この説明が,作中の論田橋の説明にそっくりです。
アニメ氷菓OPでも登場しています。
スタリ・モスト-wikipedia
論田橋の話の中で登場した,マーヤがユーゴで一番有名な橋と言っていた Mostar
この橋があるのがボスニア・ヘルツェゴビナの都市,モルタルで町の象徴となっています。
写真では飛び込んでいる人の姿が。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992年 - 1995年)の間、クロアチア分離主義勢力・クロアチア防衛評議会は、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍と対峙し、1993年11月9日にスタリ・モストを破壊した。
クロアチア系の民族主義者たちは橋を寸断し、周辺の歴史的な街区も破壊した。彼らにとっては、それはボスニア人文化、トルコ文化、イスラーム文化などの一部として、攻撃の的になったのである。
とwikiで説明されているように,文化の象徴としてユーゴスラヴィアの時に同じ国家だったクロアチアの勢力によって破壊されます。
それぞれの文化,国,民族を繋ぐものを象徴していた橋が,かつての同胞によって破壊される……
マーヤが目指していた7つめの文化,Senenth Hope は無残にも砕かれてしまいます……
サラエボのラテン橋。
第一次世界大戦のきっかけになった暗殺事件があったのも橋の上で,戦争を暗示するものになっています。
◇タクティウスオウガ:
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ゲーム,タクティウスオウガがユーゴスラヴィア紛争をモデルにしていると言われています。
【電撃ゲームス】松野泰己/宮部みゆき/米澤穂信が語る『オウガ』
米澤さんがタクティウスオウガについて語っています。
『オウガ』シリーズをこよなく愛する、気鋭のミステリ作家。お気に入りのキャラはカチュア。
と紹介されています。オウガが縁で宮部みゆきさんと知り合いになるとは。
いま読んでいる「犬はどこだ」は宮部さんの「火車」に似ているなと思っているところです。
◇古典部シリーズとの関係:
39 名前: 名無しのオプ [sage] 投稿日: 2006/06/17(土) 22:13:44 ID:mBp251sa
○『さよなら妖精』は当初古典部シリーズの予定だったそうですが、古典部の面々はどういう役割を果たす予定だったのか?
折木=守屋 千反田=白河 福部=文原
伊原が喋っていた台詞は白河・文原に分散された。
マーヤは千反田の家に居候している設定だった。
太刀洗は『妖精』のために作った新しいキャラ。
元々は折木・千反田・マーヤが主軸の予定だったが『妖精』になる際に守屋・太刀洗・マーヤに変わった。
最後の謎解きは折木が千反田に解説する第一段階。その後、喫茶店を去り一人で独白する第2段階に分かれていた。
白河の名前の謎解きは当初千反田でやる予定だったもの。その為白河の下の名前は千反田に似たものにした。
『妖精』のその部分を読めば千反田の名前の漢字表記も推測がつくだろう。
http://d.hatena.ne.jp/ryou-akiyama/20060617
米澤さんの講演会の時の発言です。ここから「千反田える」の名前の意味と漢字について考察することができます。
作中では白河の「いずる」という名前は親族から漢字の一文字ずつもらった。しかし,その漢字を繋げると意味的に矛盾するのでひらがなにしたと説明されます。それで「逸」と「留」で「逸留」。抜きんでるとそこに置くで意味が矛盾するので「いずる」にしたと。こういう名前推理は「ふたりの距離の概算」でも登場していました。
それで,「える」の漢字を考察してみました。
千反田える,名前考察:
Wiktionary:漢字索引 音訓 る
常用漢字で「る」の音訓は「留」と「流」の二つ。
女の子に「流」をつけるのはマズイ(流産や縁談が流れることを連想させます)ので白河と同じく「留」の可能性が高いです。
(メモオフ2では「静流」と書いて「しずる」いうヒロインが登場していましたが……)
Wiktionary:漢字索引 音訓 え
常用漢字表内音訓として,「柄 重 江」があるので,「江留」の可能性が高そうです。
江留
実在する名前としてもありそうです。
白河との川繋がりにもなります。
「江」は海や湖の陸地側に入り込んでいる場所を意味することがありますが,長江,揚子江のように川を指すものとしても使われていました。流れる川のイメージと留まるで矛盾する意味になります。
「江流」だと重複,流されっぱなしになるという作中の台詞ともマッチします。
「える」-名付けと姓名判断
http://5go.biz/sei/cgi/kensaku.htm
他の可能性として「栄留」「絵瑠」「絵琉」「永留」「永流」「恵流」というのもあるかもしれません。
白河の下の名前は千反田に似たものにした。
という方向性から考えると,「江留」の江,川のイメージから流れ出るで「いずる(出流)」。そこから逆の意味になる漢字にしたのではないでしょうか。
その川のイメージから姓にも「河」を。
そして岐阜県の「白川郷」から,「白河」にしたという可能性があります。
アニメでは千反田は白川郷の三角屋根に似たおにぎりを作っていました。
氷菓 第4話 「栄光ある古典部の昔日」-Junk Head な奴ら
ということで,わたしは「千反田江留」説を推したいと思います。

メモオフの白河静流(しらかわしずる)
白河いずるの元ネタだと思っていたのですが,米澤さんはノベルゲームはやらないと講演会で。キャラ設定も被ってはいません。ちなみに妹の名前は「白河ほたる」ひらがな名です。(静流ルートでの修羅場は最高でした)
○シリーズものは完結させる?
小市民は秋・冬で完結させるつもり。秋のタイトルは『秋期限定マロングラッセ事件』
古典部は本来古典部でやるつもりだったエピソードを『さよなら妖精』でやったので軌道修正。詳しい予定は未定。
紺屋S&Rはミステリーらしいミステリーを書くために用意した舞台装置なのでとくに完結とかは考えていない。
「さよなら妖精」を古典部シリーズでやっていたら,これが古典部シリーズの完結エピソードになったのではないでしょうか。
スニーカー文庫で出せなくなったため,形を変えて東京創元社から出版した「さよなら妖精」が高い評価を受けることによって,古典部シリーズの続きが出せるようになるとは。米澤作品のようなほろ苦い展開です。
古典部シリーズの時代設定ではユーゴ紛争は終わっているので,古典部シリーズでやる場合にはユーゴではなく架空の国を設定する予定だったということです。
現実のあの紛争が悲惨だっただけに,実際のエピソードならではの重みを与えてくれたのでこれも結果的に正解だと思います。
それに,大刀洗という魅力ある新キャラクターが登場することになったし。
「氷菓」「愚者」の千反田よりも,「さよなら妖精の」白河の方にわたしは魅力を感じます。
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これらに「さよなら妖精」の後日談にあたる短編が収録されているとのことです。
大人になった守屋と大刀洗の姿,大刀洗がフリーライターとして事件に関わる話が!?
入手困難&値段が高いということで,手を出さないことにします。
後日談は「ベルーフシリーズ」という名前になっているようですが,これらをまとめて文庫版で出してくれることを期待します。
紛争で破壊された橋はその後新しく建て替えられていました。
さよなら妖精の登場人物たちも,マーヤのことを乗り越えて新しい橋を架けることができるのでしょうか。
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とても丁寧に感想を書かれていますね、記事を読みながらまた胸の中に切なさがこみ上げてきました、、、
米澤さんの作品ははじめて読んだのですが、とても楽しめました
登場人物たちがすごく魅力的でしたので、共通するところのある氷菓などもこれから読んでみたいと思います
個人的に太刀洗さんが一番好きなので、また他の作品に登場してほしいですね
私もあなたのように、本を深く愛することができるようになりたいです
ラストは号泣しました。ただただマーヤがかわいそうで涙が止まりませんでした。もちろん”可哀想”という一言でくくれるものではないと分かっています。でも”どうして”というただ単純な感情でいっぱいで、哀しかったです。副題『7th HOPE』の意味もせつなかったです。
マーヤ可愛いですよね!手帳とペンを取り出す早業、たまにドヤァと繰り出す変な日本語、友達想いなところ・・・
私が読んだのは東京創元社版のほうだったので、収録されている書き下ろし短編『花冠の日』に出てくるマーヤの従妹、リリアナもとても可愛いです。マーヤとリリアナに藤柴市の花を見せてあげたいです・・・飛騨は春が遅く短いので、四月は桜・水仙・チューリップ・木蓮等いろんな花が同時にワーッと咲いているんです。『君の名は。』のモデル舞台の宮川町の紫陽花ロードもとても綺麗なんです。
ジャンルが”ボーイ・ミーツ・ガールミステリ”となっていたので『氷菓』みたいなものかな、と気軽に臨んだら全然深いテーマで驚きました。これは映像化して世間に伝えたいものがあると思うのですが、よほど上手な脚本家や監督じゃないと駄作になってしまいそうな危険性がありますよね・・・
ほぼ地元語りで申し訳ありません;私は”すごい”だの”かわいそう”だの本当つたない感想しか言えないので、とても分かりやすい感想が嬉しかったです。
本当にありがとうございました!