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米澤穂信 「犬はどこだ」 感想

犬はどこだ (創元推理文庫)犬はどこだ (創元推理文庫)
(2008/02)
米澤 穂信

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「犬はどこだ」は米澤さんの第6作目。
古典部シリーズの「クドリャフカの順番」の次んい出版されています。

米澤さんはこれまで高校生が主人公の作品を書いていましたが,今作では主人公は大人です。
内容も青春&日常系ミステリーではなく,一般ミステリーしています。

主人公は調査事務所を開設し,そこに寄せられた依頼を解いてゆくという形でストーリーが展開し,「探偵」だけあってハードボイルド調です。米澤さんをラノベ作家と思っている人はこれを読んだら認識が変わるのではないでしょうか。

一般ミステリーとしてかなり面白く,先の展開が気になり引き込まれます。複線の回収といい,終盤の…………が見事です。


ネタバレを含むので残りは追記で:



あらすじ:
主人公の紺屋は東京で銀行員になりましたが,入行後すぐにアトピーを発症してしまい,仕事をリタイアせざるを得なくなり,地元の八保市に帰ってきます。
舞台はいつもの高山市かなと思ったのですが,もっと田舎な感じがします。
「山地に囲まれていて高地にある」と表記されているので,古典部シリーズのように岐阜県内がモデルだとすると,郡上市とか飛騨市,下呂市あたりになるのかもしれません。

地元に帰ってきたら病気が治ったので,社会復帰のために仕事を始めることにします。
それで選んだのが調査事務所。「紺屋S&R」を開業します。
以前にバイトで犬捜しをしたことがあるので,犬専門の探偵業をしようとしたのですが,公務員をしている友人から依頼人を紹介され,人捜しをすることになります。
(「犬はどこだ」というタイトルに「紺屋S&R」ということで「いぬどこSR」と自分は勝手に呼んでいました)

最初の客は隣町(といっても峠道を間に挟むのでかなり離れています。車で1時間半ということなのでかなりの田舎です)の小伏町から来た年配の男性。
東京で働いている孫,佐久良桐子が消息を絶ったので探して欲しいと。
会社を辞め,アパートを引き払っています。手紙の消印から八保市にいるようなのでここに依頼が。

ということで犬ではなく失踪人を捜すことになるのですが,最初に「犬」が登場するのが,妹の梓とその旦那が経営する喫茶店「D&G」での会話です。
近所で野良犬が出ていると。でも,その野犬の事が依頼になるわけではありません。

まず,気になるのは失踪中なのに実家に手紙が届くという点です。
これは東京でアパートを引き払ったときに転送届けを出しているからです。
そうしていなければ宛先人不明扱いになっているはずです。
そして,実家に届く絵はがき。宛先は「小伏町谷中」。スタンプを見ると八保市から出しています。
失踪したのに痕跡をこの辺に残しているという矛盾が。

とりあえず最初の依頼なので取りかかることにすると,事務所に高校時代の後輩が尋ねてきます。
名前は半田平吉,通称ハンペーです。
ハンペーは探偵稼業に憧れていて,先輩の紺屋が事務所を開いたので雇って欲しいと。
紺屋は断るつもりでいましたが,そこに再び依頼が入り,ハンペーに任せることにします。

その依頼が小伏町の谷中で自治会長をしている人の頼み。
長年保存されてきた古文書の由来を調べてもらいたいと。

ここまでが Chapter 1:2004/8/12-8/13になります。
桐子が仕事を辞めたのが7月末,絵はがきの投函日が8/10

ということで,紺屋は佐久良桐子捜し,ハンペーが古文書の由来を担当することに。
ここから,紺屋パートとハンペーパートが交互に進んでゆきます。



複数の視点:
紺屋は元銀行員だけあって,あまり探偵らしくありません。病気で体力も失ったと。
夢破れて地元に戻ってきたこともあって,リハビリを兼ねて仕事をしているような状況です。
あとがきでは紺屋はマイクル・Z・リューインのアルバート・サムスン風であると書かれているのですが,わたしは読んだことがありません。
それで,わたしのイメージ的にはロス・マクドナルドのリュウ・アーチャーです。

ウィチャリー家の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-1)ウィチャリー家の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-1)
(1976/04)
ロス・マクドナルド

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代表作の「ウィチャリー家の女」も人捜しの話です)

一方,ハンペーはレイモンド・チャンドラーの作品に登場する探偵,フィリップ・マーロウに憧れていて,ハードボイルドしているのですが,マーロウほどスマートではありませんし,クールでもタフでもありません。
体育会系の肉体派探偵,脳筋タイプに見えて不安を感じさせるのですが,話が進むにつれて有能なところを見せてきてくれます。

長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))
(1976/04)
レイモンド・チャンドラー

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ドライ・マティーニといったらフィリップ・マーロウです。「長いお別れ」は名作中の名作で高校時代に何度も読み返しました。
村上春樹版も持っているのですが,読み慣れている清水俊二版の方がお気に入りです。

そのようなわけで,それぞれのパートごとに主人公が変わり,文体を変えてきています。
「クドリャフカの順番」で古典部メンバーのそれぞれの視点から物語を展開させたことが「犬はどこだ」にも生かされたのでしょうか。

最初は全く違う事件をそれぞれが調べているように見えるのですが,ハンペーパートですぐに「佐久良桐子」の名前が登場し,読者には共通点があることが示されるのですが,二人の間のミスコミュニケーションにより,終盤までその共通点には気がつきません。
読者は知っているのに,作中の登場人物が気がついていないという,視点の違いによるギャップが面白いです。


それに加えて,チャットでのとの会話シーンがあります。
このGENが何者なのかというのが謎になっています。
「犬はどこだ」はシリーズ化を考えて作られた設定なので,今後も登場してきそうです。
わたしは GENは General から来ているのではないかと予想しています。
自衛隊でいうと将官クラスでかなり上の地位になりますが,情報収集能力の高さから,政府関係の要職についているのではないでしょうか。

このように様々な視点から,起きている事件を見てゆくことになるのですが,終盤に明らかになる佐久良桐子の視点,意図が大きなインパクトを与えてくれます。

追われるものだと思われていたのに,実は狩る側だった。そのための罠を張り巡らしていたということを知り,衝撃を受けます。
文庫版の帯に「衝撃のラストを見逃すな!!」と書いてあり,ある程度結末を予期できていても,この立場の逆転の見せ方にはインパクトがあり,これまでの伏線,桐子の行動理由,意図していたことが明らかになってゆく過程は読み応えがありました。



The Citadel Of The Weak:
「犬はどこだ」の英語タイトルです。訳すと「弱者の城塞」
読み終わるとこの意味がわかり,じわじわと来るものがあります。

Citadel(城塞) となったものですが,それぞれ主要登場人物に当てはまりそうです。
古代において農民は谷中城を山中に築き,生き延びるために武装して戦うことをしていたことが,例の本で明らかになります。立場的に弱者であると思われていた農民たちは城塞を作り戦うことをした。

現代においても弱者はいます。でも逃げ込むことができる城塞のような場所はなかなか無いのが実情です。ストーカー被害に対しての警察の動きとか,病気になったり何らかの理由でリタイアした人に対する会社の対応とか再スタートするための行政のサポートなどは十分ではないということが言われてきています。

桐子が逃げるだけのキャラではなく,城塞で敵を迎え撃つことが平穏な生活に戻る道と考え,実際に行動するところに面白さがあります。
頭が良く,仕事もできる桐子はただの弱者として逃げるのではなく,先祖が選んだのと同じ方法を取ることにします。犯罪ではありますが,戦争に巻き込まれているような平時とは違う状況下で反撃に出ます。山の中に戦うための城塞を築きました。


紺屋も社会的には弱者です。銀行への就職が決まり,勝ち組になったと思ったのにドロップアウトすることになりました。調査事務所を作りましたが,収入,社会的信用,福利厚生などは行員時代とは大きく違います。

そんな紺屋を支えるものとなったのは家族ではないでしょうか。
最初は立ち上げた事務所が城塞に当たるのではと思っていたのですが,それほどの思い入れは見られません。
今のところ紺屋が守ろうとしている特別なものや場所は無いように見えるのですが,救いとなったものが妹や祖母であったので,暫定的に家族ということにしておきます。何かあったときに最後に頼れるのは家族です。

アトピーで酷い状態になった紺屋のために泣いて帰ってくることを勧めてくれた祖母。そして,兄の復活を望んでいてくれた妹の存在が立ち直るための助けになっていました。特に妹が良キャラ(梓という名前と猫のエプロンであずにゃんと呼びたくなりますが……2005年の作品なので,けいおん! のアニメよりも前に発表されています)なので今後の妹との絡みも楽しみです。

探偵役の妹というと「三毛猫ホームズシリーズ」を一番に思い浮かべるのですが,今後犬や妹が活躍することはあるのでしょうか。
紺屋S&RのネーミングもD&Gを意識しているように見えますしシスコンなところを今後も見せてほしいです。


もう一人の主要人物であるハンペーもある意味弱者にあたります。
腕力はありますが,定職に就かずにフラフラしています。人に使われたり,人を使うのが苦手で会社生活には馴染めないタイプです。
そういう性格はいろいろとハンデになるのですが,一匹狼としてもやっていける探偵稼業はハンペーにとって天職のようなものです。
ハンペーにとっては紺屋S&Rが自分にとっての城塞,仕事を続けてゆくうえでの最後の砦となっているのではないでしょうか。



犬はどこだ:
犬捜しの話のはずなのに,それをしないというところが面白いです。
しかしタイトルは「犬はどこだ」です。でも犬はほとんど登場しません。それで文字通りの「犬」としてだけではなく何かを象徴するものとなっているはずです

では,「犬」は何を表しているのでしょうか。
大きく分けて,捜すという行為そのものから,自分捜しや自分を取り戻すこと。
野犬が表していた,アクシデント。
そして,番犬としての,アクシデントから身を守るものの3つを意味しているように見えます。


英語で Dog は落ちぶれた状態を指して使われることがあります。
A Dog's Life は犬のような惨めな生活を意味しますし,疲れ果てた状態を表すために Dof が使われたりします。

紺屋は病気になり仕事を辞めて地元に戻ってくることにより,抜け殻のような状態になっていました。そこから気力を取り戻すものになったのが,今回の仕事でした。
「紺屋S&R」として捜査しますが,Search には人捜しだけでなく,自分捜しも入っていたように見えました。Rescue には危険な状態から救助,救援することを意味しますが,紺屋自身が救われることにもなったのではないでしょうか。今回の件で立ち直ることができていました。

桐子も自分の平穏な生活を取り戻すために,今回の計画を立てていました。
そのようなわけで自分の普通の日常を「犬」が象徴していて,それを取り戻すことが一つのテーマになっていたのではないでしょうか。


Dog は犬の習性から,つけ回す,つきまとうといった意味で使われることがあります。
それで,災難や不幸がつきまとうことに関しても用いられることがあります。

この点に関しては「野犬」が象徴していたアクシデントが関係しています。
桐子はストーカーにつけ回され,最初はネット上で,そして実社会でも攻撃を受けることになります。天職だと思っていた仕事も辞めざるを得なくなります。
紺屋も病気という突然のアクシデントに見舞われます。そういう突然に忍び寄る理不尽な事柄,暴力性が野犬によって象徴されていました。


そうしたものから,身を守るために紺屋は番犬を飼おうとしていました。
暴力やアクシデントから身を守るものとしての「犬」が象徴されています。
紺屋がナイフを手放さないようにしたように,桐子にとって犬となったのは,アクシデントを元から断つために迎撃することでした。

でも,紺屋にはナイフのような物理的な手段では身を守ることよりも,犬が忠実を象徴(犬は人間の最良の友と呼ばれています)しているように,ハンペーが忠犬のような存在になって危険から守ってくれる存在になってくれるのではないかと思います。

さらに,Dog Days という言葉があり,これは夏になるとおおいぬ座のシリウスが太陽と一緒に昇ることに由来していて,7月から8月の暑い時期を指すのですが,今作が7,8月の話であったことと関係しているのではないでしょうか。
(アニメ DOG DAYS は1期は春でしたが,2期は7月開始に)



総評:
これまでの米澤さんの作品は高校生が主人公であり,日常系の青春ミステリーだったのですが,こうした一般ミステリーも実に面白いです。
紺屋はこれまでの主人公らしさがありますが,ハードボイルドしようとしているハンペーがミステリー感を出してくれています。
調査事務所を舞台に据えることによって,事件が起きてそれを調査するという通常のミステリーらしい展開をさせることができるので,シリーズかもしやすいのではないでしょうか。
そういう普通のミステリー路線でも,米澤さんらしさを十分に出してくれていますし,事件,謎をシンプルに追いかけて行くストーリーなので話に引き込まれ,一気に読みたくなる魅力がありました。
次の話が計画されているようなので楽しみにしています。

BBSでの桐子のスレ,「そうですね」,「そうですか」は人気があり,某掲示板の米澤さん関連のスレでよく使われたりしています。



事件の動きダイジェスト:
桐子の動き
2002年4月
桐子,コーングースに就職。

2003年12月頃からネットでの粘着が。

20004年4月初め
サイトを閉鎖。
その後,蟷螂による最初の襲撃。

2004年4月末
サイトが復活。

2004年6月中頃
粘着が止む。
二度目の襲撃。

2004年7月に入って再び閉鎖。ログを完全に消す。

2004年7/10以前
桐子,小伏に住民票を移す。

2004/7/31
コーングース退職。

2004/8/10
桐子,八保から絵はがきを投函。

2004/8/11
桐子,馴染みの場所に現れる。


紺屋とハンペーの動き
2004/8/13
紺屋:桐子が小伏町に7/10以前に住民票を移していたことが明らかに。(姿を消す前に住民票を移しているという謎が)
桐子の上司の神崎と接触。全部終わらせたら復職したいと言っていたと。

ハンペー:小伏町まで古文書を。何年か前に桐子もこの古文書を調べていた。
小伏町の役場で歴史学者の江馬常光のことを聞く。図書館で著作を調べることに。先日も学生が同じことを尋ねに来ていたと。

2004/8/14
紺屋:桐子の友人と野犬退治を。桐子の立ち回り先を教えてもらえる。そこに行くと3日前に桐子が来たと。桐子から店員に話しかけてきたと。わざと印象に残る行動をしたのか。神崎と接触。夜にGENとチャット。

ハンペー:山北高校の教師と会う。古文書が「禁制」と借金の証文であることが明らかに。違反するものを捕らえる権利。このことを質問してきた生徒,佐久良くんのことが。詳しい説明は「戦国という中世と小伏」という江馬の著作の中に。図書館で本を探す。鎌手と接触。

2004/8/15
紺屋:エマvs蟷螂事件について知る。ブログの書き込みをチェック。
渡辺から桐子がロープを買っていたことを。
小伏の桐子の祖父の家に。日記から桐子が谷中城に行ったことが。
桐子が蟷螂からリアルでも襲われたことが明らかに。二度目の襲撃の際に蟷螂を刺す桐子。

ハンペー:本をゲット。黒ビートルの調査員と接触。

2004/8/16
谷中城へ。








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