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米澤穂信 「秋季限定 栗きんとん事件」 感想

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(2009/02)
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米澤 穂信

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「恋しようって思って,尽くしたのよ。恋人ってそういうものかなって」

春季限定,夏期限定と読んでいないと楽しめない作品です。
キャラを知っているだけに登場人物の行動や考えを予想しながら読んでしまうのですが……
色々と裏切られる楽しさを味わうことができます。
連続不審火がメインとなっていてミステリー要素が強いのですが,しっかりと青春しようとしています。

ネタバレありなので追記で:



第一章「思いがけない秋」

高校二年の夏休みが終わった後,夏期限定トロピカルパフェ事件の直後から物語がスタートします。

小鳩くんと新キャラの瓜野くんの二人の視点で交互に話が進むという展開になっています。

小鳩くんは小市民を目指すために,前回での事件がきっかけとなって小佐内さんと別れますが,そのことを知ったクラスメイト,仲丸さんから思いがけない告白を受けて付き合うことに。
甘酸っぱい展開になりそうに見えますが,このシリーズのことだから……。

一方の瓜野くんは新聞部の一年生。新聞部は堂島が部長ということもあって,部に出入りしていた小佐内さんに興味を惹かれ話し掛けるという暴挙を。二人でスイーツを食べに行くことになります。

二人の本質をよく知らない新キャラが加わることで話が動きそうです。
仲丸さんも瓜野くんも一般的な高校生,目指すべき小市民のようなキャラに見えます。



第二章「あたたかな冬」

小鳩くんが付き合うことになったのは仲丸さん。いい子みたいです。
彼女がいるということであたたかな冬に。リア充しています。
でも素直に甘い展開を楽しめないのが小鳩くんらしいです。デート中でもバスの中で誰が先に降りるのかを推理してしまいます。小市民を目指すなら高校生らしい普通の恋愛に流されないと。

一方,瓜野くんは小佐内さんと付き合うという神をも恐れぬ大胆不敵な行動を。
小佐内さんにいいところを見せようと月報船戸でみんなの注目を集めるような記事を書こうとしています。小佐内さんはそんな瓜野くんをサポートしようとしているみたいですが……。

それで目を付けたのが市内で起きている放火事件。
この事件の話を持ってきたのが瓜野くんの友達の氷谷。イケメンで頭の回転も良く,瓜野くんも一目置いています。
でも自分で話を持ってきたというのが怪しいです。調査するように誘導しているみたいだし。

瓜野くんは10月からの不審火を実地検証して関連性に気がつくのですが,2月に燃やされたのは例の小佐内さん誘拐事件に使われた車。
小佐内さんが絡んでいるのか……という疑問が生じます。
小佐内さんは堂島に誘拐事件のことは記事にしないでとお願いに来ています。
でも「それ以外のことだったら,いろいろ書くのって素敵だと思うの」とオオカミモードを見せています。
それで,夏期限定トロピカルパフェ事件の時のように何を企んでいるんだと邪推してしまいます。今度は何をターゲットにしているのか。瓜野くんを利用するのか。

瓜野くんが放火現場を実地検証したのは一月だったのに,小鳩くんが燃えた車を見たのが二月。この一月の空白が気になります。


放火事件まとめ:
毎月第二金曜日の深夜に不審火が。

10/12:園芸部が借りている葉前(はまえ)の畑で刈った草が燃やされる。金槌も紛失。

11/10の新聞:西森二丁目の児童公園に置かれていたゴミ箱が燃やされる。

12/8の新聞:小指(こざし)の資材置き場で廃材一本が燃やされる。

1月の冬休みの最後の日の仲丸さんとのデートの時に,檜町2のポンプ車が出動。

1/11:茜部(あかねべ)で放置自転車が燃やされる。

1/12(土)の瓜野くん実地検証の時に上ノ町2の消防車が出動。
(連続性に気がつき,2月号の月報船戸のコラムで次の放火場所を予想する)

2/9の土曜日の零時頃,誘拐事件に使われたライトバンが燃やされる。


これらの不審火の連続性,関連性について考えてみたのですが……思いつきません。
地域データーが関係あるならマップが添付されそうなのですが。無いところをみると地域性は関係ないのか。
クドリャフカの順番の時のようなはっきりとした連続性が見えてきません。
恋人がいるという意味と炎でのあたたかさの冬に。



第三章「とまどう春」
小佐内さんにいいところを見せるためのコラムを書くことができるようになります。
それで瓜野くんが2/1の月報船戸で書いたのが,問題の不審火について。
次は津野,木挽のあたりと予想するのですが,小鳩くんが目撃したように,2/9に予想していた津野で自動車が燃やされます。

続いて3/3のコラムでは次は当真町,鍛冶屋町,日ノ出町と予想。
3/15午前零時頃,日の出町でバス停のベンチが燃える。と的中です。

これまでも瓜野くんと小佐内さんは夏期限定のリストに登場した店に行くことをしていましたが,夏期限定で4位にランクインしていた「桜庵」が秋にタイトルの「栗きんとん」を出すと。

「あなたがわたしの,シロップなのよ」とマロングラッセの作り方を説明する際に小佐内さんが語るのですが,瓜野くんが自分を小市民にしてくれるという意味なのか,それとも犯罪を追っていることが自分の計画と関係があったりするのか。
小佐内さんが瓜野くんの記事にケチをつけた教師が移動になったことを知らせてきたことからして,不審火関連で瓜野くんを利用しようとしているように見えるのですが。

marronglaces.jpgkurikinton.jpg
マロングラッセと栗きんとん。
タイトルの「栗きんとん」が登場し,同じく栗を使ったマロングラッセの話がされているので,何か重要な意味がありそうです。

一方の小鳩くんは仲丸さんの前で小市民であろうとしますが,たわいもない会話の際にも推理力を発揮してしまいまうのですが,その程度の謎では物足りないと感じてしまいます。
これは好敵手であった小佐内さんにチェンジすることになるフラグなのか。

瓜野くんの不審火の予想は木良市の防災計画に記載された分署リストの逆順によるもの。
それで,次の分署の管轄地域の町が狙われると予測することができたということが明らかに。
「クドリャフカの順番」での文化祭のしおりを思い起こさせます。

しかし,上のまとめにあるように,それとは別に檜町と上之町も出動しています。
これが本筋の不審火と関係があるのかが気になります。

この成果によって瓜野くんは新聞部の部長になり,全面的に放火事件を終えることに。
会心の活躍で調子に乗ったのか,事件のことを調べない方がいいという小佐内さんを黙らせるためにキスをするという暴挙を!!!!
血をもって償わせるために全面報復を受けてもおかしくない行為ですが,キスの寸前に小佐内さんがレシートを二人の唇の間に挟んで難を逃れます。小佐内さんの貞操は守られると同時に瓜野くんは命拾いします。

そして,小鳩くんのいたずら書きにある「北条」の名前。新聞部の主導権争いか連続放火に関係あるようなのですが,初めて登場する名前です。(と思ったら例の誘拐事件のライトバンの持ち主でした)

小鳩くんの推理によると小佐内さんは外部のことを書かせるために新聞部に働きかけをしていた。それで瓜野くんを利用したと。
小佐内さんは誘拐に使われる車が燃えることを知っていて,それを書かせたかった。だが,放火は小佐内さん的な復讐方法ではない……

それで,春季限定での最初の事件に登場した吉口に小佐内さんと瓜野くんの関係を聞きに行くことに。誰と誰がくっついたかに関する事情通です。
吉口から瓜野くんと小佐内さんが付き合っていることを知らされます。
ついでに仲丸さんが二股をかけていることが知らされます。本命は大学生だと。



ここで上巻が終了。
いろいろと謎が多いです。

小市民シリーズ三作目ということで,古典部シリーズの「クドリャフカの順番」と似ている点が多くあります。
クドリャフカでは四人の視点で展開されていましたが,秋期ではこれまでの小鳩くん視点に加えて瓜野くん視点でも物語が語られます。
クドリャフカでは連続性のある盗難事件が起きていましたが,秋期では連続不審火。文化祭のしおりに対し,消防署の分署リストが使われています。

しかし,わかりにくい連続性です。市の防災計画の分署マップという普通の高校生がまず見たことがないようなリストがネタになっています。文化祭のしおりという全校生徒に配られたものを使ったクドリャフカに比べると明らかに洗練されていません。

小市民を目指し目立たないようにする小鳩くんに対し,事件を解き明かして名前を残したい探偵役の瓜野くん。熱くなると前が見えなくなるタイプなので簡単に踊らされ利用させられそうです。

それで気になるのが小佐内さんの動きです。
復讐のために新聞部を利用しているように見えてしまいます。その目的は何なのか。不審火と小佐内さんの関係は。
小佐内さんは放火犯ではないとは思うのですが,犯人を知っているのでは。
今回の復讐のターゲットは小鳩くんではないかと思うのですが……
そして,仲丸さんは本当にビッチなのか。小鳩くんは全く動揺していないのですが……

犯人の予想ですが,怪しそうな動きをしている小佐内さんはミスリードに見えます。真の行動理由はまだ見えてきません。

新キャラの瓜野くんと仲丸さんですが,二人が目指すべき小市民のサンプルとしてのポジションのようです。
彼女にいいところを見せたい,見事な推理をして名を残したいといういかにも俗物的な探偵です。叙述トリックが使われている可能性もありますが,鮮やかな犯罪をするだけの技術が無いように見えます。
仲丸さんも普通の女子高生,恋愛脳だしショッピング大好きでミステリーには全く興味がなさそうです。二人とも犯人役としては役不足なのでは。

一番怪しいとなると,瓜野くんの友達の氷谷くんです。
不審火のネタの提供者,実地検証にも付いてきていました。
大好きな海外ドラマ「クリミナルマインド」では犯罪者のプロファイリングが行われるのですが,放火犯は男性が多いです。燃えてる火を見たり騒ぎになるのを楽しみます。実地検証に付いてきたということで怪しいです。瓜野くんに記事にするように働きかけていました。
自信があり能力が高い犯人は捜査側に加わろうとしたり,捜査状況を知ろうとします。クリミナルマインド的プロファイリングによると氷谷なのですが,これもミスリードの可能性もあるし……。米澤さんなので衝撃的な終盤のどんでん返しがありそうです。

または何かのメッセージを伝えるために特定の順番で放火していることも考えられます。
分署リストを使っていることからすると消防署や署員に対するメッセージということになるのですが,それらしき伏線は瓜野くんの兄が消防士であるということだけです。小佐内さんと消防関係で何かあったのか。

一番気になるのは,夏期限定で決別した小鳩くんと小佐内さんがどうなるかです。
秋期は起承転結の「転」に当たるので二人の関係にも変化がありそうです。

上巻では小鳩くんと小佐内さんは接触することがあっても,一言も会話していませんでした。
下巻ではどんな動きを見せるのか,小佐内さんは何をしようとしているのか,連続不審火の真相とは……。
色々と気になります。
ということで予想と考察をしたところで下巻へと進みます。




第四章「うたがわしい夏」
5/1の月報船戸コラムからスタート。
次は上之町一丁目ないし二丁目が狙われると。リストの通りです。
この事件のケリをつけることが新聞部にとっての一番の目的になっています。

新入部員も入ったことなので,予想にしたがって張り込み犯人逮捕を目指します。
氷谷は張り込みには参加せず,メールの返信も遅いということで怪しいです。

おまけに小佐内さんが電話をかけてくるし。列車の音がするので外にいるようです。そして電池切れということで切ってしまいます。

切れた数分後に放火の報告が。
放火犯は現場に金槌で叩いたような跡を残すことが明らかに。
そういえば最初の葉前の現場でそのような記述が。それ以降は搭乗していなかったようですが……

一方,瓜野くんは新聞部の五日市くんから新聞部の情報を仕入れています。
ついに放火犯を捕まえるために動きます。
瓜野くんと小佐内さんが繋がっていることはわかっていますが,情報戦では小佐内さんに勝てないということで五日市くんから情報を聞くことに。小佐内さんの動きを警戒しています。

そして,例の防災計画のリストがトリックのネタとしては不完全であることが明らかに。
瓜野くんが指摘したリストは六年前限定の分署リストでした。
犯人はピンポイントにそのリストを持っていなければならないことになりますが,大多数の人が知らない情報をリストにしたら,世間にアピールできません。

この手の犯人は世間を騒がせることか,何かのメッセージを伝えることが目的だと思われるのですが,一般大衆にメッセージを送っているようには見えません。ターゲットは消防関係なのか。でもここまでで登場しているのは消防車だけで消防士は出てきていません。

小鳩くんパートでは仲丸さんとの仲が不穏に。
吉口さん情報を小鳩くんが知っていることに気がついているようです。でもそのことには触れずいつも通りの小鳩くん。裏切り者と糾弾するつもりは無いようです。

ファミレスでの注文から仲丸さんがトマトが嫌いなはずと推理するのですが外れてしまいます。仲丸さんがメニューの写真と値段で決めたといういかにも小市民的な理由で注文を決めていたので,さすがの小鳩くんの推理も外れてしまいます。
小市民の思考を小鳩くんはまだ理解できていません。理由が平凡すぎてがっかりしているみたいです。仲丸さんでは推理勝負の相手にならないと思っているようです。小佐内さんを恋しく思っているのか。


6月号の月報船戸ではリスト通り北浦町が狙われると予告します。
張り込みのために瓜野くんは氷谷と下調べをします。
瓜野くんは消防士が怪しいと見ているようです。
氷谷はいつもの日付が雨みたいなので放火は無いかもと。

小佐内さんは先月の記事が間違っていたと瓜野くんに指摘。
事件は土曜日だけではなく金曜日だったと。
そういえば公園の時計が故障していて0時前で止まっていました。
小佐内さんはそれを見たので時間を勘違いしたのでは…………
夏期限定の時のようにミスを犯したのか。でもその時のように不意を突かれたわけではないからそんなミスをするとは…………
おまけに前日に下見をした証拠のようなレシートを残して行くし。
小佐内さんともあろう人がそんな軽率なミスをするわけが。

7月号の月報船戸では6月は雨のため事件が起きなかったと。
それで,次も北浦町が狙われると予告。

小鳩くんは犯人を捕まえるために何かを仕掛けているようです。
警察は瓜野くんを泳がせているみたいですが。

仲丸さんとの破局が。
浮気しているのを知ってもいつも通りなのが気に入らなかったみたいです。
気を惹くため,嫉妬してもらうためにやっていたことなのか。
でも,小鳩くんが無反応なため仲丸さんは小鳩くんと別れることに。愚かな女的行動です。

7月も放火が。
「作戦は成功。新聞部は失敗」と堂島からメールが。
小鳩くんの仕掛けは上手くいったようです。新聞部はまたもや取り逃したわけですね。



第五章「真夏の夜」
ここまでは季節とひらがなの組み合わせが章タイトルになっていましたが,漢字が使われています。

8月になり再び放火犯を捕まえようとする新聞部。
瓜野くんは次はない,放火犯が誰だか知っていると宣言を。

小鳩くんと堂島も犯人を待ち構えています。
しかし,いつもより早い時間に堂島の前で炎が!

小鳩くんが駆けつけると,そこにはハンマーを持った小佐内さんが!!!

ついに二人が会話します。
でもたいして会話しないうちにそこには瓜野くんが。

瓜野くんが放火犯だと思っていた相手は小佐内さんでした。それで後をつけていたと。
例の時計の時間やレシートのこと,手にしているハンマーから小佐内さんを犯人と決めつけますが,その根拠を全否定する小佐内さん。

小佐内さんは瓜野くんを助けるために行動していました。
調査しないよう助言したのも,瓜野くんは小市民だから,犯人を捕まえようとしたら自分が小市民であることを思い知ることになるからと。

明らかに瓜野くんのスペックを低く見ています。
調べられたら自分の犯行だと気づかれてしまうから……のようにミスリードさせていましたが,そうではありませんでした。明らかに瓜野くんを格下に見ています。実際小佐内さんは瓜野くんがどうにかできるような相手ではありません。名探偵に憧れる普通の高校生レベル止まりです。

真犯人は堂島が捕まえていました。
仕掛け通りにいったわけですね。

例のライトバンが燃やされたのは偶然でした。
これも上手なミスリードです。どうしても小佐内さんの復讐が関係しているように見えてしまいます。

小鳩くんは犯人が防災計画のリストではなく,月報船戸の予告に従って火をつけていることを見抜いていました。

月報船戸に記事が出るまでの10月から1月までの放火は防災リストに従って火をつけたわけではなくたまたまそうだった。防災リストの方がこじつけだったというオチです。

非連続性だった犯行を瓜野くんが連続していると決めつけていたわけです。
連続性に見える非連続性。これも巧みなミスリードです。
「クドリャフカの順番」のようにルールに従って犯行が行われているように見えて,実はそうではなかった。途中から月報船戸に合わせて犯行を行っていたというのは作者の巧妙なミスリードです。
小市民シリーズを読んでいる読者だけではなく,古典部シリーズを読んでいる読者までも欺くとは。小市民シリーズと古典部シリーズは1,2作目と共に似ているところがあったという伏線が生きてきます。

クドリャフカとは違って防災リストが一般的ではないマニアックなものであったり,最初にリストが載せられていなかったり,愚者の時に手がかりになったのに今回で重要な要素を示しているように見えた市の地図が添付されていなかったりと実にフェアな仕方でヒントが示されていました。

小鳩くんは月報船戸を見て犯人が放火場所を決めていることを見抜き,堂島と五日市の級力を得て月報船戸にクラス別でより具体的な放火場所を書き足すことによって犯人を絞り込んでいました。これが仕掛けか。
それによってあぶり出された犯人は氷谷でした。

その推理力を褒める小佐内さんですが,小鳩くんはこれが小佐内さんの復讐計画だと思っていました。わたしを含む大抵の読者がそう思い込んでいたはずです。

しかし,小佐内さんは純粋に瓜野くんを助けるためにこの件に介入していたのでした!!

それが恋,恋人のために尽くすことだと思っていたのですが,普通の女子高生が恋人のために尽くすといえばもっと甘酸っぱいイベントを考えるはずです。
平凡なデートイベントをこなすのではなく,高度な情報戦でサポートしようとする小佐内さん……。小市民の道は遠いです。

しかし,小鳩くんも人のことを言えません。
平凡な女子高生とのデートを楽しむことができていませんでした。
つい話の先や行動を読んでしまうのですが,それが平凡すぎて物足りなく感じてしまいます。
夏期のシャルロッテの時のような対決を至高と感じているようですが,そんなハードモードの相手が務まるのは小佐内さんだけです。

お互いに一般人,目指すべき小市民との付き合いに物足りなさを感じる二人。
それで残された高校生活再び一緒に過ごすことを決めます。

例えは悪いですが小佐内さんも小鳩くんも高級な純度の高い麻薬みたいな存在です。
その味を知ってしまうと純度の低い薬では満足できなくなってしまいます。
自分が求めていることに応えてくれない物足りなさが一緒にいることを難しくしてしまいます。
この感じだと二人が小市民になることは無理なように見えます。今のままの自分でどう世間と折り合いをつけて行くか,二人だけの世界で生きてゆくかが次巻のテーマになるのでしょうか。



第六章「ふたたびの秋」
8/8に犯人は逮捕。
9/16の月報船戸コラムでは犯人は火をつけるたびに友達が大騒ぎするのが面白かったと。
コラムを書いたのは五日市くんで,このコラムが犯行を煽ったことを指摘し反省すべきと書いています。
犯人の氷谷は最初は普通の放火犯で月に一回の気晴らしとして塾帰りに火をつけていました。
それを瓜野くんが取り上げて次の犯行を予想することから事件が注目され盛り上がってきたので,それに便乗して大騒ぎするのを楽しんでいたわけです。

ということで瓜野くんは大敗北。
今回の件で信頼していて一目置いていた氷谷が犯人で,瓜野くんを利用し馬鹿にされていました。
肝心の推理も大ハズレ。自分の恋人を真犯人だとドヤ顔で告発してしまいます。自分の記事が事件に関係してきたということで周りから叩かれることにもなると思うし。

再び一緒に過ごすことを決めた小鳩くんと小佐内さんが一緒に出かけるのは「桜庵」
秋季限定の栗きんとんが目当てです。

瓜野くんにマロングラッセの話をした小佐内さんですが,小鳩くんには栗きんとんの話を。
シロップにつけてゆくことによって次第に栗を甘くするマロングラッセに対し,栗きんとんは栗を煮て裏ごしして砂糖と混ぜて煮込むのが栗きんとん。

なるほど,そういう意味があったのか。
小佐内さんは甘い恋人と一緒にいることによって自分も甘くなろうとしていた,普通に恋人同士していたのです。
でもそれでは不十分で,栗の味を変えるには栗きんとん方式しかないと。煮てつぶして砂糖を混ぜないとアクが抜けません。小鳩くんも仲丸さんとのことからそのことを実感しています。

あの小佐内さんが普通に恋人ごっこしていた……。
驚きの展開です。絶対何か裏がある,復讐のための手段に違いないと思っていました。
春期と夏期で描かれた小佐内さんの姿によってミスリードされてしまいます。

そんな甘い恋人関係に憧れていたなんて……と驚愕させられます。
ならば今度は僕と甘い関係になってみない。君じゃないと物足りないんだよ。と終われば爽やかな後味なのですが,それで終わらせないのが小鳩くんです。

納得のゆかない小佐内さんの行動を指摘してしまいます。
電話での電車の音や壊れた時計で時間を間違えたことはわざと小佐内さんがミスしたことであって,自分が犯人であると瓜野くんにミスリードさせるためだったと。
本のレシートもわざと残したわけですね。小佐内さんはそんなイージーミスをするような人ではありません。

すべては瓜野くんが小佐内さんを犯人だと指摘するように仕組んでいたわけです。
自分の恋人を犯人だと告発する。でもそれは間違いでした。瓜野くんは完全敗北。自分のミスと愚かさのせいで立ち直れなくなりそうです。

怪しげに見えた上巻での小佐内さんの行動は瓜野くんを本当に助けようとしてやったことでした。
しかし,下巻からの小佐内さんは瓜野くんを罠にかけようとする復讐者に。

「敗北感を植え付けて,行動が愚かだったって思わせて,相手が自分の無力を心から信じるようにすることなの」
これが小佐内さんの復讐の定義。

上巻では甘い恋愛を通してマロングラッセになろうとしていた小佐内さんが復讐者へと変化していました。読んでいるときはどちらの小佐内さんも同じように見えるので,実は豹変していたということを知り驚きと共に恐ろしさを与えてくれます。
下巻での仲丸さんのわかりやすい変化といい,学園青春風の味付けなのに綺麗な恋愛は描かれないのか。

そして,最後の一行で小佐内さんが復讐者となった理由が明らかにされます。
つかみ所のない小佐内さんの復讐の動機が最後の最後で明かされるという手法は見事です。



総評:
小市民シリーズとしての面白さでは夏期限定トロピカルパフェ事件の方が上でしたが,ミステリーとしてはこちらの方がずっと良くできています。

伏線の使い方が見事です。
ミステリーファンが初めての米澤作品として今作を読むなら,氷谷が怪しいとすぐに疑うと思うのですが,春期,夏期での小佐内さんについて知っているとどうしてもミスリードされてしまいます。
おまけに古典部シリーズを読んでいると,クドリャフカの順番との類似性のせいでミスリードされるという仕掛けが。これには騙されました。

一般ミステリーでは真犯人の正体や動機を探るのがメインになりますが,氷谷はあくまでも脇役,メインは小佐内さんの動機と行動理由であり,それを今回は裏の探偵役である小鳩くんが探るという二重構造も非常に面白いです。

上巻と下巻の分け方も絶妙です。
上巻では規則性が無い放火が行われ,下巻では月報船戸での予想に従って放火が行われます。
非連続性の犯行が連続性のあるものに変わっていたという仕掛けも見事です。

そして,上巻と下巻でヒロインの心境も変化しています。
上巻での小佐内さんが好意から動いていたというのが驚きを与えてくれます。
両ヒロインとも上巻での最後の章での出来事によって変化するのですが,仲丸さんの理由がわかりやすいだけに小佐内さんの行動が通常運行に見えてしまいます。

瓜野くんを登場させることにより,探偵役の敗北を描いたというのも面白いです。
見栄っ張りで自分勝手で手柄を立てていいところを見せることだけにこだわるその姿はミステリーの名探偵や刑事ドラマの登場人物を思い起こさせます。

瓜野くんの推理によって事件が動き解決に近づいているように見えながらミスリードに踊らされてしまいます。この作品のミスリードの巧みさを示すものにもなっていました。
瓜野くん視点で物語を振り返ると完全に黒歴史です。残りの学園生活をどう過ごすのか同情したくなってしまいます。

この瓜野くんのアクが強くてシリーズものとしての作風が変化してしまったのが残念なのですが,若干残念なのですが,小市民な探偵であり主人公という立ち位置で,小鳩くんと比較されるポジションなので,一般的な小市民像を示すという点で瓜野くん視点は必要でした。
瓜野くん視点を入れることによって叙述トリックが使われているのではと邪推してしまったのですが,これもミスリードの一部と言えるかもしれません。

米澤ファン,ミステリーファンの両方を満足させることができる素晴らしい作品になっていると思います。

小市民シリーズは次巻の冬季限定で完結という話なので,どういう終わりかたになるのかが気になります。早く刊行して欲しいのですがいつになるのでしょうか。



http://bookjapan.jp/interview/090713/note090713.html
米澤さんのインタビュー。小市民シリーズについても興味深いことを語っています。

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)最上階の殺人 (Shinjusha mystery)
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アントニイ バークリー

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インタビューの中で語られていますが,今作で取り入れられているのはバークリーの最上階の殺人ではと思われます。
探偵役が敗北する,面目丸つぶれという共通点が。



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2012-07-28 16:16 : Book : コメント : 3 : トラックバック : 0
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No title
先生、写真の栗きんとんは小鳩くんの言っていたおせちの奴の方です。
多分小佐内さんのおっしゃるのはこちらです。
http://kurikinton.info/

ジュンクさんは真相にかなり迫っていたのですね、凄い。わたしははじめから考えるのを放棄していて(^^;

悪い意味で小佐内さんを信用してしまうのが悪質な(褒め言葉)ミスリードでした。
放火自体には絡んでいない、とは思わなかったし、教師の異動とかは結末まで読んだ後でも関与を疑っています。
そして、夏ではまだ普通な気がしていた小鳩くんもいよいよ駄目ですね。

今年のバレンタインあたりで冬が来るかと思ったのですが、もう少し焦らされそうですね。
2012-07-29 11:14 : さめろく URL : 編集
Re: No title
> こんばんわ,さめろくさん。
リンク先の情報ありがとうございます。
お菓子はあまり食べないので,おせちの栗きんとんしか知りませんでした。

先が気になるので考えるよりもページを進めたくなってしまいますね。
わたしは読みながらメモ帳に入力していたので推理してみました。

どうしても放火犯よりも小佐内さんがどう絡んでいるのかが気になるように思わせる書き方は流石です。
教師の移動に関してははっきりと書かれていませんでしたが,瓜野くんに協力しようとしていた小佐内さんなので暗躍していた可能性もある気がしてしまいます。

今年の冬あたりに出てくれたら嬉しいのですが,気長に完結を待つことにします。
2012-07-30 19:53 : ジュンク URL : 編集
No title
おそらく入力するときに気づかれてなかったものと思いますが、タイトルの秋期限定栗きんとん事件の「秋期」が「春季」になってますね・・・

あと、その他〈小市民〉シリーズのタイトルは季節の「季」ではなくて期間の「期」が使われています。
2012-12-22 19:42 : みやけん URL : 編集
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