池井戸 潤 半沢直樹シリーズ 感想
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池井戸 潤さんの「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」
半沢直樹を主人公とするシリーズを読みました。
Kindleで最初の2冊が紹介されたので予約して読んだのですが非常に面白かったです。
高杉良の銀行ものが好きでほとんど読んでいるので,このシリーズにも手を出してみました。
高杉作品は経済小説で関係者を取材して実際の出来事をベースにしているのですが,池井戸さんは勧善懲悪とミステリー要素を組み合わせていてエンタメ作品として優れています。
TVはほとんど見ないのでドラマ化されていることを知らず,友人との会話に半沢の名前が出てきて驚きました。
TV版も少しだけ見たのですが,映像化にあたってだいぶ脚色されています(わたし的には小説版の方が好きです)。行内での権力争いとか「倍返し」の部分が強調されすぎている感じです
作品的には「ロスジェネの逆襲」が一番面白いです。
今日本屋に行ったらランキング上位を独占していて売れ切れ状態でした。
売り切れのないKindleはこういう時便利ですね。

Kindleでも発売以来ずっと上位をキープしています。
感想についてはネタバレも含みそうなので追記で:
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半沢の産業中央銀行への就職活動がまず描かれ,半沢の入行動機が語られます。ソウルオリンピックのことが出てくるので1988年入行です。
物語はすぐにそれから十数年後の話になり,銀行は不良債権を抱え,夜中は不景気と入行当時の明るい見通しは完全に狂っています。
バブル期には銀行は貸しまくっていましたが,多量の不良債権を抱えているために回収に躍起になっています。
作中では「晴天に傘を差しだし,雨天にとりあげる」と描かれていました。
バブル期には無茶な融資をしたりいろいろと悪事を行っていたのですが,そのツケを半沢たちバブル入行組がとらされることになっています。
半沢もバブル期にはいい思いをしていた支店長から押しつけられた案件の責任をとらされることになり,不良債権となった5億円を回収しなければ銀行内での立場がなくなるように追い込まれてしまいます。
半沢にとっては絶望的な状況なのですが,そこからこの件の絡繰りをを見抜き,自分を追い込んでいった連中をやり込めることにします。
融資先の社長がいかにも悪役という感じなのですがそれを追い詰め,その裏にいる黒幕である支店長にたどり着くように,経済小説ではなくミステリー要素を入れているため,ストーリーに引き込まれてゆきます。
そしてなんといっても悪事を暴き,悪者を徹底的にやり込める半沢が痛快です。
ちょっと相手が小物すぎるというか単純なミスをしすぎているようにも思えるのですが,少々卑怯にも見える手も使いながら「倍返し」を決めてゆくという徹底した勧善懲悪が話を盛り上げてくれます。
ちなみにこの巻では「倍返し」という言葉は出てきません。(Kindleはワード検索ができるのが便利です)
「オレは基本的には性善説だ。相手が善意であり,好意を見せるのであれば,誠心誠意それにこたえる。だが,やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして-潰す。二度と這い上がれないように」
と十倍返しと過激です。
一般的に銀行員というとお堅いイメージ,ガリ勉秀才タイプの印象がありますが,半沢をそうした普通のサラリーマンではなくダークヒーロー的な描き方をしているところが面白いですね。
経済小説だと仕事に追われている中間管理職の共感を得るような内容になるのですが,エンタメに徹しています。普通は半沢のような言動はサラリーマンには無理です。リアリティよりも面白さを追求したのでより多くの人の共感を得て大ヒットに繋がったのではないでしょうか。
そんな半沢ですが,入行の動機になった突然手のひらをを返して父が経営する会社の融資を引き下げた銀行員である木村をやり込め土下座させます。
でも,上の十倍返しの台詞にあるように這い上がれれないまでに潰すことはしません。
黒幕である支店長の悪事を暴いて潰す機会がありましたが,彼が謝罪し土下座するのを見て破滅させるのを思いとどまるように,冷酷ではないところも魅力です。
そういうわけで今後の半沢の活躍が非常に楽しみになる終わり方になっています。
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前巻での見逃す代わりの取引によって営業第二部に配属になる半沢。
頭取命令で半沢が担当することになるホテルを巡る戦いがメインになります。
銀行内の部署や派閥の争いに加えて金融庁の検査官とのバトルが展開されます。
高杉さんの金融腐食列島シリーズのモデルとなっている三和→UFJ銀行でのネタも登場してきます。
半沢の産業中央銀行も東京第一銀行と合併して東京中央銀行になっています。
旧Sと旧Tの軋轢やたすき掛け人事ということで,高杉さんの「呪縛」のモデルになっている第一勧銀(現在のみずほの前身)を思い起こさせますが,第一銀行と勧業銀行が合併したのは大昔なので,特定のモデルとなる銀行は無いようですね。
前巻では半沢の抱えた案件の話がメインでしたが,銀行内部の問題や金融庁との対決とスケールが大きくなっています。敵の立場も高くパワーアップしています。
それに加えて,半沢の動機である近藤視点からも話が展開され,それが半沢の件と繋がってゆくのですが,近藤がどん底から這い上がって銀行員としてのプライドを取り戻してゆくところが読み応えがあり,同じバブル組である近藤の物語でもありました。その近藤の抱えている弱さと強さ,二人の友情や人間味の描き方が見事でした。
半沢も近藤もかなり理不尽な状況に追い込まれるのですが,このシリーズの作風をすでに理解しているので安心して読み進めることができます。諦めずに攻める半沢は魅力的です。
この巻でシリーズのキーワードとして遣われている「倍返し」が登場します。十倍返しではやり過ぎなので自重したのか……
前巻よりも銀行内での緊迫感のある描写が多いので非常に楽しめました。
今回半沢が戦う相手は金融庁の捜査官や銀行の常務と大物なので,見事に頭取命令を果たしながらも,敵を作ってしまうことになります。
それでせっかく移動することができた営業第二部から出されることになってしまいます。
すっきりしない終わり方になりますが,この展開が次の巻で生かされることになります。
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最初に人物相関図が載せられ,バブル世代とロスジェネ世代のマークがつけられています。Kindleだと戻りにくいので,こいつ誰だっけと思いながらも相関図のことは忘れていました。
半沢は子会社である東京セントラル証券へと出向になり,銀行員ではなくなりバンカーではない半沢をどう描くのかと一瞬不安を感じたのですが,企業買収や公開買い付けといった証券会社ならではのストーリーにすることによって単なる銀行ものではない面白い展開になってゆきます。
そして,東京セントラル証券証券の案件を東京中央銀行が奪い取ることによって半沢vs東京中央銀行という展開を見ることができます。これも半沢が出向させられたからこそできる展開です。
今作ではそうした出向組が抱えている問題や組織の都合に翻弄されるサラリーマンの姿,会社の方針と信念が食い違うサラリーマンの姿が描かれていて個人対組織という構図やその中でどのようなスタンスで仕事をするかといった社会人ならだれでも直面するようなテーマが扱われています。
Kindleだと読者がつけたハイライトが表示されるのですが,「仕事は与えられるもんじゃない。奪い取るものだ」,「仕事の質は,人生そのものの質に直結しますから」,「仕事は客のためにするもんだ・ひいては世の中のためにする。その原則を忘れたとき,人は自分のためだけに仕事をするようになる」といった作中の台詞が共感を集めていて,社会人にとって働くこととは何なのかということも訴えかけてきます。
物語は半沢の証券会社にクライアントから企業買収の話が持ち込まれるところから始まるのですが,なぜこの案件をこれまでそれほど親しい付き合いもなくこの分野での実績も乏しい東京セントラル証券に持ち込んだのか……ということが伏線になっていて,それが最大の鍵になっていたというミステリー的な展開も面白かったです。クリスティの「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」を思い起こしました。
半沢のセントラル証券は子会社ですし,出向組なので普通なら親会社に頭が上がらないはずなのですが,買収の案件で銀行の反対側につき買収を阻止するように真っ向から対決します。
やられたらやり返すという半沢のスタイルはここでも健在で,買収の案件を奪い取り半沢を追い落とそうとした銀行の証券部に対して見事なまでの反撃を見せます。今回は倍返しというよりも十倍返しに近い徹底的なやり込め方でした。
これによって銀行の窮地が陥らないようにすることができたので,頭取から認められることになり営業第二部の次長として銀行に復帰することになりました。
頭取からも注目されることによって次も大きな仕事をしそうですし,上に行って組織を変えるという半沢の野望にも近づきそうです。
これまでは上の世代に楯突くという半沢でしたが,バブル世代の下の世代であるロスジェネを登場させることによって上司としての半沢の姿も描いていました。生意気で型破りに見える半沢ですが実に良い上司でした。
出世して上に立って社会や企業の悪い風習を変えてゆく半沢の姿を見たくなりました。
ということで半沢直樹シリーズは非常に読み応えがあり時間のあるときに貪るように読んでしまいました。
読後感もいいですし主人公にも魅力があります。わかりやすい勧善懲悪ものであり,エンタメ作品として盛り上げ楽しく読ませてくれます。そうでありながらも銀行しいては日本の企業や組織が抱えている問題や企業人としての姿も描き,経済小説としても優れています。
巻を進めるごとに面白くなっているので次の巻も非常に楽しみにしています。
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